一人暮らしの不安を「住み開き」で解消shakaishinpo1

民家を改装した「笑恵館」

世田谷区砧の住宅地にある「笑恵館」は、老朽化した自宅を、地域の人たちが気軽に集まり、つながりをつくれる施設として改装したスペースだ。

花が咲き乱れる庭のウッドデッキから1階共用スペースに入ると、大きなテーブルの食堂、パン工房、キッチン、小物などを売るミニショップがあり、別棟の二階建てはルームシェアができるアパート4戸、シェアオフィス2戸になっている。オーナーの田名夢子さん(67歳)が住んでいた母屋とアパートを改装したもので、田名さんは母屋の二階に今も住んでいる。

田名さんが「笑恵館」を起業したのは1年前。もともと自宅は田名さん一家が母親と住んでいた築60年余の家で、1階は早くに亡くなった画家の父親がアトリエとして使っていた。母の死後、遺品や絵画の整理に約2年を費やすことになり、そのあまりの大変さに、自分の子どもには同じ苦労はさせたくないと強く思ったのがきっかけで、老朽化した家の扱いや自分の暮らし方について模索していた。

「実際に施設で働いたこともありますし、高齢者施設やシェアハウスなど、あちこち見学したりしましたが、医療や介護を受けられる環境さえできれば、住み慣れた自宅で終末期を過ごすのがいちばんいい、と考えるようになりました。そこで、『住み開き』という方法にいきついたのです」と田名さんは話す。

一人暮らしは不安だが、自宅を全部でなく一部開放することで、地域の人たちと助け合って生きられる場をつくれるのではないか。また、そんな場を求めている人は、自分以外にもいるのではないか。

そこでまず、空き室を子育てサロンやミニデイサービスとして開放し、自分の思いを周りの人に話しながら、自分も何かやってみたいという人や、この施設を維持したいという人を募ってきた。今では地域の人を中心に、老若男女が集まり、月一回のミーティングには映画鑑賞会や夏休みの流しそうめんなどの企画をもちよる。SNSの情報で立ち寄ってみたという人や、田名さんの人柄に触れ、一人暮らしの老後を共に考えたいという人、ビジネスを始めたいという人もいる。アパートの住人は、以前は隣同士全く交流がなかったが、今は、毎月、全員参加の食事会で顔合わせをして、交流している。

笑恵館の活動の事務局を担当するのは、一般社団法人日本土地資源協会。同協会の松村拓也さんは起業サポートのプロでもある。松村さんは、「都市の空き地、空き家問題を何とかしたいと協会を立ち上げたが、空き地や空き家は買い手・借り手がついただけで問題が解決するわけではなく、一時問題が先送りされるに過ぎない。笑恵館の経験を見ていると、そこにどんなコミュニティが作られていくかは、起業しようとする人の思い次第。今後も未来に希望が持てる起業をサポートしていきたい」と話している。

問い合わせ先 電話/ファックス 03-3416-2308